第1回 黄帝内経素問 上古天真論篇 ― 古代人はなぜ長寿だったのか?
目次
導入 ― 人はなぜ老いるのか?
「なぜ人は年をとるのだろう?」
「どうすれば健康で長生きできるのだろう?」
この問いは、現代に生きる私たちだけのものではありません。実は、二千年以上も前の中国でも、すでに人々が深く考えてきたテーマでした。
東洋医学の最古の古典とされる『黄帝内経』は、その冒頭に「上古天真論篇(じょうこてんしんろんへん)」という一章を置きます。ここでは、伝説の帝王・黄帝と、名医として知られる岐伯(きはく)の対話が展開されます。
黄帝が岐伯に問いかけたのは――
「昔の人は百歳を超えても健やかに暮らしていたのに、なぜ今の人は五十歳前後で衰えてしまうのか?」
これは、現代で言えば「なぜ昔の人の方が健康長寿だったのか?」という問いと同じです。
このやりとりは、私たちに「養生(ようじょう)」という大切なテーマを考えるきっかけを与えてくれます。
黄帝の問い ― 長寿と短命の不思議
黄帝は、人々の寿命が大きく変わったことに疑問を持ちました。
- 昔の人は、百歳を超えても元気に生活していた。
- ところが今の人は、五十歳にも満たずに衰えてしまう。
この差はどこから生まれるのか?
それを解き明かすことが、黄帝にとって国家を治めるための重要なテーマでもありました。
岐伯は答えます。
古代の人々は自然の摂理に従って生活していたからこそ、精気を保ち、健康で長寿だったのだと。
古代人の養生 ― 自然とともに生きる
岐伯が語る古代人の生活は、とてもシンプルで自然に沿ったものでした。
四季に合わせた暮らし
- 春には種をまき、体も心も活動を始める
- 夏にはのびやかに育ち、陽気を十分に取り込む
- 秋には収穫し、心身を引き締める
- 冬には静かに休み、精気を温存する
太陽とともに起き、日が暮れれば眠る――そのリズムは自然界の動きそのままでした。
食生活の節度
古代人は必要以上に食べず、飲みすぎず、自然の恵みをそのままいただいていました。
お腹いっぱいになることよりも、「身体に必要な分だけ」を重んじ、暴飲暴食は慎まれていました。
欲望を抑え、心を安定させる
欲望のままに生活するのではなく、心を静かに保ち、余計な感情に振り回されない。
これによって精気を消耗せず、老化を遅らせることができました。
👉 結果として古代人は「腎精(じんせい)」と呼ばれる生命エネルギーを保ち、百歳を超えても健やかに暮らせたのです。
現代人の生活 ― 精気を消耗する習慣
一方で黄帝の時代における「今の人」、つまり現代人に近い暮らしをする人々は、自然に逆らう生活を送りました。
- 酒を好み、酔いにおぼれる
- 色欲に流され、精を消耗する
- 夜更かしや不規則な生活でリズムを乱す
こうした生活は、生命の源である精気を傷つけてしまいます。
その結果、体の老化が早まり、五十歳を過ぎる前に衰えてしまうのです。
これは現代にもそのまま当てはまります。
暴飲暴食、睡眠不足、ストレス過多、スマホや夜型生活――これらはすべて「精気を消耗する生活習慣」といえるでしょう。
養生という言葉の意味
「養生」とは、単に病気を避けることではありません。
岐伯の言葉を現代的にまとめると、次の3つの柱に整理できます。
- 陰陽の調和
→ 自然のリズムに従い、春夏秋冬や昼夜の変化に合わせて心身を整える - 精気の保持
→ 生命の根本である腎精を大切にし、暴飲暴食や不摂生で無駄に消耗しない - 精神の安定
→ 欲望や怒りに振り回されず、心を静かに保つ
つまり養生とは、 生命を育て、充実させ、寿命を全うするための生き方 なのです。
現代へのヒント
『黄帝内経』の養生の知恵は、現代の私たちにもそのまま応用できます。
- 夜はきちんと眠り、朝日とともに起きる
- 食べすぎず、腹八分目を心がける
- 仕事や遊びも節度を持ち、ストレスをためすぎない
- 季節に合わせて体を養う(夏に冷やしすぎない、冬に無理に汗をかかない)
これらは特別な健康法ではなく、日常の中で無理なく取り入れられる習慣です。
まとめ
古代人は自然の摂理に従い、陰陽の調和と精気の保持を重んじたため長寿であった。
【関連一覧】
第2回:古代人と現代人の違い
第3回:養生の基本原則
第4回:女性のライフサイクル 七の倍数
第5回:男性のライフサイクル 八の倍数
第6回:例外的な長寿者
第7回:養生の理想像 真人・至人・聖人・賢人
第8回:養生が教える病を防ぐ生き方