五臓の解説
東洋医学における五臓(肝・心・脾・肺・腎)の考えは、西洋医学とは大きく異なります。西洋医学では、脳からの命令で内臓が働くと考えられていますが、東洋医学では五臓は内臓としての機能だけではなく、精神活動などにも影響を及ぼす中枢的な役割があると考えられています。
五臓はそれぞれ固有の機能を持っていますが、孤立しているわけではありません。互いに影響を及ぼしあい、体の各器官の調和を保つために働いています。
肝の特徴
- 判断力や計画性などの精神活動を支配する
肝は「将軍の官」、「罷極の本」などと称され、身体活動や精神活動の中心になります。肝の調子が良いと、内外の変化にすばやく対応して適切な行動がとれますが、肝の調子が悪くなってしまうと、イライラして怒りっぽくなってしまいます。その結果、判断力や計画性などに悪い影響が出てしまいます。
- 血を蔵する
肝にはたくさんの血液が貯蔵されています。身体各部の血流量を活動状況に応じて調整します。肝の調子が悪くなると、この調整がうまくできなくなります。夜に横になると眠くなるのは、多量の血液が肝に戻り脳に行く血液が少なくなるからです。そのため、この機能が低下してしまうと安眠できなくなります。
安静時は手足に流れる血が少なくなり肝に収まっていますが、体を動かし始めると血を速やかに手足に分配します。この働きが正常であれば、手足の筋肉がしっかりと機能して、頭に血が上ることも防ぐことができます。
この肝の機能が正常でなくなると、血の上逆による頭痛、めまい、耳鳴りなどを起こす可能性があります。また、逆に上部への血の流れが悪くなる場合もあり、顔面蒼白、難聴などが起こることがあります。女性の月経異常なども肝の調子が悪くなると出現することがあります。
- 筋を支配する
肝は、筋肉に適切に血を配分することで、筋肉の運動を支配しています。反対に、肝の働きが低下してしまうと、筋肉に力がなくなり、ひきつれて痛くなってしまいます。そして、筋疲労がたまりすぎても肝に悪影響が出てきます。
- 肝の状態が爪に反映される
東洋医学では、爪は筋肉の余りだと考えられています。そのため筋肉と同様に肝の状態を反映しています。肝の働きが正常であれば、爪は弾力があり、つやがよく、血色もよくなります。しかし肝の働きが悪くなってしまうと、爪の色つやがわるくなり、爪が変形してしまうこともあります。
- 目と関わりが深い
肝は目を通すことで外界と交流しています。そのため、肝の状態は目が物を見るという機能に影響を及ぼします。肝の働きが正常であれば、目が物の判別をしっかりできるようになりますが、肝の働きが低下してしまうと目が疲れやすくなり目の機能が低下してしまいます。また、逆に目を酷使していると肝の機能が低下してしまいます。
- 涙に影響を与える
肝は目との関わりが深いため、そこから流れる涙とも関わりが深くなります。肝の働きが正常であれば涙が目を潤し乾燥などから保護してくれますが、肝の働きが低下してしまうと目の乾きや、涙が流れすぎてしまいます。
肝の疏泄作用
東洋医学では、肝は「疏泄」に関わるとされています。疏泄とは、気や血の流れを整えてスムーズにする作用のことで、新陳代謝をイメージしてもらうと分かりやすいかもしれません。
この疏泄がうまく機能すると、気がよく巡り、精神も安定します。また、胆汁の分泌も良くなり、脾胃の消化を助けます。
反対に、この疏泄がうまく機能しなくなると、気の巡りが悪くなり、イライラしやすくなります。また、脾胃の病気になりやすいです。
風の邪気
肝は、風の邪気との関りが深いです。気候の変化などが原因の体調不良で、最も影響を与えるものがこの風邪です。
風は上に昇りやすい性質があるので、頭痛や鼻詰まり、喉の痛み、顔のむくみなど体の上部の症状として現れることが多いです。また、風邪による症状は遊走性という性質があります。風は動きやすく、変化しやすいので、症状も一定せずに、さまざまに移動することがあります。症状の経過も急変することがあります。
当院では、このような体の不調を防ぐためにも、肝の働きを整えておくことが重要だと考えています。